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最高裁判所第一小法廷 昭和32年(オ)782号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人飯田信一の上告理由第一点について。

原審の是認、引用した第一審判決は「訴外岩田義美は本件建物を訴外西山武造から譲受けた上、第一の保存登記にもとずいて昭和二十六年一月二十二日所有権移転登記を経由したが、その後昭和二十八年七月十八日原告(上告人)は本件建物及び外一棟の建物について被告との間に前示保険契約を締結したこと前認定のとおりであるから、右保険契約は本件建物に関する限り、被保険利益を欠くものとして無効といわなければならない」と判示しており、右判示の趣旨とするところは、上告人は係争建物の所有権が自己にあるものとして保険契約を締結したのであるが、上告人は右建物につき登記をしていないため、第三者に対抗しうる所有権を有しておらず、従つて被保険利益を有していなかつたことに帰するから、右保険契約は、右建物に関する限り、無効であるというのである。右原審の判断は、原審の認定した事実関係の下においては正当であり、所論商法六三〇条違反または理由そごの違法は認められない。

同第二点について。

所論引用の大審院判例は、建物の所有権を有する者について登記が未了であり、他に第三者に対抗しうる所有権者が存在することが問題となつていない事案に関するものであるが、本件は、他に第三者に対抗しうる所有権者が存在し、有効な登記のない上告人は、その所有権を第三者に対抗しえない場合に関するものであるから、右判例は本件に適切でない。そして、被上告人が本件家屋につき上告人と本件火災保険契約を締結したものであることは、当事者間に争いのない事実であるが、この一事をもつて、被上告人において、真に上告人が所有者であることを認め、登記の欠缺を主張する権利をも放棄したものであることを推断しえないのみならず、被上告人において、上告人が所有者であることを認めたことにより、登記の対抗力の問題を生ずる余地はないとの所論事実は、記録上何らあらわれていない。所論は結局原判決に副わない事実関係を前提とする主張であつて、採るを得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 高木常七)

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